Manic Street Preachers 99.2.9:On Air East

7日の公演、彼らの"今"を確認できて、とにかくよかった。そして、その後は必ずもう1回見たくなるだろうと予測した私は、追加公演にして日本最終公演のチケットも押さえていた。当然この日の公演もソールドアウト。そして、赤坂Blitz以外では珍しい、ダフ屋がOn Air周辺を徘徊していた。恐るべしマニックス。


 本国ではアリーナクラスで公演しているというのに、ここ極東の島国では1,000人も入らないライヴハウスでの公演である。私たちは幸せだ。ステージ向かって右側に前列近くに陣取ってみる。なんでも前日(8日)の公演ではニッキーが頭痛で不調だったとのこと。7日の公演では角度的には真正面からジェームスを中心に見ていたので、この日はニッキーに着目しながら楽しむことに決める。隣にいた人に、「マニックスのファンなんですか?」と話しかけられ、少しだけ話をした。その人は最近ファンになったようで、『The Holy Bible』以降の作品しか聴いておらず、私が選曲は5枚のアルバムから満遍なくやるけど、と教えたら頭を抱えてしまった。黙っていればよかっただろうか。客が激しく反応したら初期の曲だと思えばいいよ、と最後に付け加えておいた。私の前の2人組の女性のうち1人は、93年のツアーのTシャツを着ている。やはり今回の来日公演を待ち望んでいた人は多い。





 午後7時を15分ほど回り、客電が落ちた。メンバー登場。と共に、観客はどっと前の方に押し寄せる。私も前の方に行く。ステージ向かって右側のスピーカーより少し右側に位置取る。7日と同じく『Everything Must Go』でスタートする。ニッキーはグラサン姿である。調子は・・・、これといって変なところは見受けられない。どうやら大丈夫そうである。


 Webの情報で、選曲が日替わりで、かなり日本向けにアレンジされていることは知っていた。しかし、この日は早くも2曲目に飛び道具が出た。



『Faster』!



 そう、サードアルバム『The Holy Bible』収録の曲で、結構人気の高い曲のようである(この曲をナマで聴いたことで、私は翌日に、唯一CDで所有していないサードアルバムを購入した。遅いですか?)。場内の反応も早い。やはり、コアなファン多いな。続いては新作からの『You Stole The Sun From My Heart』。うひょー。これ、もしかしたら、今日は演奏曲数最も多いかもしれない。最終公演だしな、なんて期待してみる。


 続いての飛び道具は、なんとセカンドアルバム『Gold Against The Soul』からの『From Despair To Where』。う~む、だんだん初期の作品からの比率が高くなってくるような気がする。しかし、マニックスとはこうまでフレキシブルなバンドだったのか。私はセットリストを全く変えないアーティストよりも、日替わりで攻めたててくれるアーティストの方を断然好んでいる。もちろん、毎晩同じセットを繰り返すのは、それはそれで1つの挑戦であって素晴らしいのだが、しかし、その刹那刹那、2度とは帰らないその一瞬一瞬を燃えつくばかりに突っ走るアーティストの方により惹かれてしまうのだ。それが最も顕著に表れるのがセットリストだと思っている。ボブ・ディランが、元プリンスが、コステロがそうであるように、マニックスもその系譜を歩もうとしているのだろうか。





 前日のことを知るファンが多いからなのか、単に私がニッキー側に陣取っているからなのか、ニッキーに対する声援が異様に多い。そして、それに笑顔で答えるニッキー。ジェームスがなんかずんぐりむっくりの体型になってしまったので(笑)、バンドのヴィジュアル面を一手担っている感がある。どの曲でか忘れてしまったが、自分のマイクを観客の方に向けてあおり、そのまま演奏し切ってしまった。そしてOn Air East、音割れが結構ひどいが、個人的にはバンドをこんなにも近くで見れているので、あまり気にならなかった。


 そして、例によって『Baby Love』を経て『Motown Junk』へと至る。ここで場内大モッシュ。まさにライヴ前半部のハイライトである。このモッシュを利用して、私はもっとニッキーが見えるところにと思い、少しずつ体をステージ中央に近づけ、そしてニッキーのほぼ正面の前3列目に位置取る。うわあ、よく見えるな(笑)。この1週間で、私は計5本のライヴを見に行くことにしていて、この日はその4本目だった。今までの公演は、アリーナクラスの会場でも極力スタンド席にし、体力を温存していた。自重していた。しかし、しかし、もう我慢できなかった。解き放つときが来たのだ。周りの動きに合わせるようにしてモッシュする。気持ちがいい。いつの間にかグラサンを外しているニッキーの表情もよく見える。





 続いては『Motorcycle Emptiness』へ。7日のときは、今のバンドが、典型的な初期の代表曲を演奏してしまうことを疑問視してしまったが、しかし、こうして間近でメンバーを見てみて、それほどの気負いは感じられない。悲劇の主人公気取りの湿っぽさもない。カート・コバーンの自殺によって解散したニルヴァーナ。解散からそれほど間を置かずにフー・ファイターズを始動させたデイヴ・グロール。インタビューで、自分が書いた曲をやたらカートに結びつけられるのを嫌い、やたら同情っぽく近づいてくる周囲に「ファック・オフ」と言い放ったデイヴ・グロール。そのデイヴに、今のニッキーやジェームスの姿がダブる。初期のセンセーショナルな発言の数々が、行動の顛末が、足かせになっていないとはバンド側も言わないだろう。そして、リッチーの失踪が、深い傷跡として残っていることを、バンド側は否定しないだろう。





 がしかし、



それでも彼らは、



初期の曲を演奏するのだ。



消せない過去と自ら対峙するのだ。



悲劇から目をそらさないのだ。



全くもって、どこまで生真面目な連中なのか。



 そして、それはそのまま『If You Tolerate This Your Children Will Be Next』へと受け継がれる。マニックスのこの1曲といったら、皆さんはどの曲を挙げるだろうか。


『Motown Junk』だろうか。


『Slash'n Burn』だろうか。


『You Love Us』だろうか。


『A Design For Life』だろうか。


私なら、


私だったらこの曲を挙げる。


マニックスを知らない人にも、


まずこの曲を聴くことを薦める。


 なぜなら、マニックスのバンドとしての生き様、そしてバンドがこの先進むべき轍が、暗黙のうちに示されているように思えるからだ(マニックスほど、聴く人の思い入れが多様なバンドも稀有でしょう)。


 ジェームスのアコースティックコーナー、『My Little Empire』を切々と歌う。ここも日替わりメニューである。アルバムではバンドで演奏しているが、アコギ1本だと、何か全く違う曲のように、もの悲しい雰囲気で心に響く。マニックスのアンプラグドなんてのも、もし実現すればなかなか興味深い。ちなみに今回のツアー、アンコールはないのだが、このジェームスのアコースティックのコーナーを1回目のアンコールとし、その後のバンド演奏を2回目のアンコールとする見方もあるらしい。


 もの悲しい雰囲気から、一転して『Nobody Loves You』へ。いよいよ最後の加速である。最後を飾ってほしいという気持ちと、終わらないでくれ、という相反する2つの気持ちが頭の中で交錯する。



ジェームスの叫び、



一層強く、



一層濃く、



一層大きくなっているように感じる。



 『A Design For Life』の後、メンバーを紹介するジェームス。ニッキーのところでは一段と歓声のヴォリュームが高くなる。いつのまにか、またグラサンを着けているニッキー。そして『You Love Us』へ。ほんとうに最後のモッシュとなる。ニッキーの縄跳び、On Airの会場としての狭さ、天井の高さの関係もあってかこの日はなし。その代わり、自分のマイクスタンドを振り回し、観客の方に向ける。そしてついに、演奏も終わった。





ところが、



なんと自分のgを叩き壊すジェームス。



それに感化されたのか?、



dsセットをひっくり返すショーン。



いったいどうしたのだろう。



無事に公演をやり遂げた満足感からなのか、



単に暴れたかっただけか、



インテリ集団と呼ばれる、



彼ららしからぬ、



しかし、



見ていてもすっきりしてしまった。



そして、



これで全てが終わった。

























ずっと引っかかっていた選曲のことだが、こう考えることにした。



 デヴィッド・ボウイは、80'sになって変化することをやめ、時代に適応できずに袋小路に迷い込んだ。ティン・マシーンというバンドを結成してもみたが、活路は見い出せなかった。同じ頃、長年こじれていたレコード会社との契約がクリアになり、かつてのボウイの名盤が次々にCD化された。それを売りさばくために、ボウイは自らのキャリアを総括するツアーを敢行した。変化することがテーマであったはずのボウイが、変化することをやめてしまったばかりか、あろうことか過去を振り返るライヴをしたのだ。


 ポールウェラーは、スタイル・カウンシルで自らが仕掛けた罠にハマり、罠から抜け出すことができずに、結果、解散という決断を下した。それは、ジャムがNMEに発表した解散声明とは程遠い、薄暗い、悲しい結末だった。更に、本国ではメジャーレーベルとの契約を打ち切られ逆境に立たされたあげくに彼が取った手段は、これまたあろうことかジャム~スタカン総括ツアーだった。


 ボウイは総括ツアーから3年後の93年に、アルバム『Black Tie White Noise』で復活し、90'sのミュージシャンたちには、最も影響を受けたアーティストとして最敬礼をもって出迎えられた。また、ウェラーは総括ツアーの中で、自らが影響を受けたアーティストたちにリスペクトを放ちつつ、既にソロデビューとしての礎を固め、それは自己の第3の黄金期への布石となった。


 マニック・ストリート・プリーチャーズは、ぬぐえない過去、リッチー失踪の悲劇、それらを、渾身の新作をこの世に産み落とすことによって、新たな活路を見い出した。がしかし、本当にそれらを克服するためには、一旦、自らの全てのキャリアに対して、正面から向き合う必要があった。向き合う時期が必要だった。




そして今、



彼らはそれを、



実行しているところなのだ。

























 『This Is My Truth Tell Me Yours』は、何度も繰り返すようだが、彼らにとっての最高到達点であり、彼らの活動の絶頂期をもたらした素晴らしい作品だ。がしかし、ツアーで彼ら自身の過去に落とし前をつけることによって、




次作では、



より壮大で、



より繊細で、



より美しく、



より素晴らしい、

























そんな作品が届けられるに違いない。




(99.2.14.)
















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