Mansun 99.1.17:赤坂Blitz

いくら遅刻してしまったからといって、それを差し引いても昨年のマンサンのライヴはやはり不満の多い出来だった。ポールはほとんどgを弾かない、ステージアクションもほとんどない、MCもない、演奏も緩慢、客はまるでお通夜のように静か、アーティストが表現したいことと、オーディエンスが要求していることが合致し、そして生み出される化学反応、それがとうとう感じることのできないままに、そそくさと終わってしまったライヴ。こんなはずではなかったのに…。しかも、翌日のHMVでの握手会ではメンバーはすこぶるフレンドリーだったというし、同日深夜のClub Snoozerでは別人のように弾けまくっていたという(このときのマンサンを98年の年間ベストライヴに挙げる人も少なくない)。全くもって納得いかん。この落とし前、きっちりつけてくれるんだろうな。


 今回はその昨年のライヴのようにチケット争奪狂騒曲とはならず、当日券も売り出されていた。BeatUKの掲示板でもチケット売りますの書き込み多かったし。しかし、完全ソールドアウトとはならなかったものの、ほぼ満員の客の入りらしい(でも私のいた2階席は空席が多かった。なんで?)。前回は女性比が高かったように感じたが、今回は男女比は半々に近いぐらいに感じられる。





 いきなりのマンサン、ではなく、ウォルラスという日本人バンドの前座があった。「和製レディオヘッド」という触れ込みらしい。うん、まんまレディオヘッドだ(笑)。客はもちろんマンサン目当てなので、場内はあまり盛り上がらずにじっとバンドを凝視するような状態になる。早く引っ込んでほしそうな雰囲気にも若干なっていたが、私は結構気に入っていた。多くの前座バンドやアマチュアバンドを観て、聴いて、思うのは、voが弱くってバックの音量に負けているなあ、ということ。しかし、ウォルラスにはそれはなかった。多くを求めなければ、かなりいい方の部類だったんじゃないかな、なんて自己満足してしまった。2年前にashをリキッドに観に行って、そのときの前座は当時まだメジャーデビュー前のpre-schoolだった。今考えるとかなりおいしかった。ウォルラスは果たしてこの後どう化けるか、少しだけ楽しみである。





 ウォルラスのライヴ、及びセット替えで約1時間が費やされる。場内にはデヴィッド・ボウイの『Ziggy Stardust』の曲が順番に流され、それが途中からピストルズに変わる。午後7時きっかりぐらいに客電が落ちる。場内凄い歓声。メンバーがステージ左側からひょこひょこと登場し、ほとんど間髪いれずに『Negative』でスタート。私が危惧していたメンバーのノリ、そして客のノリ。果たして…。しかし、ポールはステージ上を右に左に動く動く。そしてそしてそして(笑)、左右にくねくねとみょ~~~な腰のふり(笑)。少しおかまっぽい(笑)。しかし、ノッていることだけは間違いない。歌い終えたところで一段と歓声のヴォリュームが上がる。この瞬間に、私は思った。



 この日のライヴ、間違いなく昨年9月のときの歯切れの悪さを完璧に払拭してくれると。


 『Being A Girl』では、ポールの腰ふりが一層激しくなる。マキシムのようにキックも決めてたりして。1階の客がステージ前方に押し寄せるのが、まるで蟻の行列が大移動するように見える。そして、演奏後半でステージ向かって右側の袖の方に引っ込むポール。まさか、またもや何か気に入らないことがあって不機嫌なのか、とイヤな予感が走る。がしかし、出てきたポールはgを手にしていた。そして、まるでプリンスの『Batdance』のイントロのようにgを弾きながら、一節ずつ『Stripper Vicar』を、何か勿体つけるように歌う。それに合わせてワンフレーズづつ弾き、曲がスタート。場内大モッシュだ。取りようによっては、かなりなげやりに歌っている感じのポール。しかし、繰り返すようだがこの気合い、ただただ凄い。



なんだよ、やりゃちゃんとできんじゃんかよ(笑)。

On Airのときのしらけた雰囲気、ここには、ない。

バンドのパフォーマンス、間違いなく、観客をねじ伏せている。

 続く『Everyone Must Win』では拳を突き上げ、あおりまくるポール。場内がいっせいに肌色に染まる光景は、上から見ていて気持ちがいい(きっとメンバーも同じ思いのはずだ)。ポールの声、伸びがあって聴いていてイイ感じだ。ファルセットもきっちり歌いこなしている。やはり良くも悪くもマンサンはポール'sバンドであり、ポールの出来如何に左右されるところが大きいと思っている。ステージに腰かけて歌うポール。最前の客に手を差し伸べて握手を交わすポール。ミネラルをちびちびと客にかけまくるポール。


 選曲は、On Airのときと同じようにファースト、セカンドから満遍なく選択されている。ここまではファーストからの曲が多い。私はセカンドアルバム『Six』の方を断然気に入っていて、昨年の私的年間ベスト3に入る、というかもっと極端なことを言えば、このアルバムを作ったことで、マンサンはもうそのバンドとしての役割を全て果たしてしまったのでは(それはつまり、あとは解散するだけ、ということ)、と思えるくらいに好きな作品だ。で、そこからの曲はやはりレコードとして聴くもので、ライヴで再現、あるいは別アレンジで全く違う命を吹き込むことが困難なのかなあ、と心配していた。しかし、『Special / Blow It』『Shotgun』『Television』という一連の曲群、さほど大胆にアレンジを変えることなかったが、しかし曲そのものが持つ美しさ、儚さ、壮大さ、妖しさ、そして激しさを、うまく放出できているように感じる。





 そしてアルバムタイトル曲の『Six』。私のマンサンに対する想いは、ほとんどこの1曲に集約されていると言ってもいい。マンサンが乱立する凡百の90'sのUKギターバンドと明らかに一線を画しているのは、この曲に見られるような、どこまで潜ったら底が見えるのか見当もつかない深い深い音楽性、そしてそこに全精力を結集して最高の瞬間を作り上げてみせるバンドとしての力量であり、勢いだけで突っ走って見ました、イエー、というような短絡性や安直さを廃絶したところにある、と私は思っている。そして、そこにこそ私は惹かれているのだ。On Airのときはなんか間延びしていて、ああ、やっぱりライヴ映えしてないなあ。こんなに圧倒的な曲なのに、こんなに突き抜けた曲なのに、こんなに壮絶でドラマティックな曲なのに、やっぱりライヴじゃキツいのかなあ。再現もできなければ、思いっきり崩すこともできない。なんか凄い中途半端だ…、と、半ば仕方がない、どうしようもない気持ちになってしまっていた。




がしかし、このときは違った。


 イントロのSEこそなかったものの、チャドのgに引っ張られる形で、アンディのdsに後押しされる形で、そしてポールのシャウトに振り回されるようにして、何か異常な雰囲気が作り出されている。ほぼアルバム通りのアレンジだったが、とにかく素晴らしかった。客も大モッシュ状態である。大合唱している。スウィングしている。「Life is a compromise anyway~」という詞のくだりでは、またもポールがステージに腰掛け、最初に自分で歌い、次にはマイクを客席に差し出しての大合唱となった。よもや、まさか、この曲でこんなにも盛り上がってしまうとは、予想だにしなかった。On Airのときのレポートで、私はオアシスの『D'You Know What I Mean?』を引き合いに出したが、もしオアシスがどんなにこの曲を研ぎ澄まして演ってみせても、こんなにはならないだろうと思った。単に私の想いとバンドのパフォーマンスとのパーソナルな回路でのスパークではなく、会場をまるごと巻き込んだ、一段上の高みに上り詰めたところでの昇華だった。



























この瞬間は永遠だった。



























涙が頬を伝うぐらいに美しい瞬間だった。



























時がこのまま止まってしまえばいい、



























時が、見える、



























世界がスローモーションになって、見える、



























人はいつか、時間だって超えられるんじゃないかって、



























時の果てを見つけられるんじゃないかって、



























そこにたどり着くことができるんじゃないかって、



























そんな気になってしまう。



























 本編は『Taxloss』から『The Edge』へとつないで大団円。場内を包む心地よい余韻、そして次への期待をほのかに撒き散らしつつ、ひとまず終了する。


 それほど間を置かずに、『The Chad Who Loved Me』、ファーストの1曲目のイントロが鳴り響く。甘美な香り。そして雰囲気。メンバー生還。そして、そのまま演奏に入る。場内手拍子になる。熱狂が、興奮が、感動が、復活する。


そして『Legacy』のイントロ。これは、いよいよ佳境に差し掛かったことの合図だ。


ここまでのステージ。


ここまでのメンバー。


ここまでの観客。


ここまでのパフォーマンス。


熱い叫び。


溢れる熱気。


ほとばしる感動。


流れる哀感。


素晴らしい空間。


まばゆい瞬間。



























そして、『Take It Easy, Chicken』へ。


ポールの咆哮、


ポールの絶叫、



チャドのg、


冴え渡る。


冴え渡る。


揺れ動く。


突き進む。


この凝縮された美しさ、


この研ぎ澄まされた美しさ、


明日へ、


未来へ、


いつまでも、


いつまでも、


永遠に、


終わることなく、


果てることなく、


尽きることなく、


全てを結集させ、


最後の瞬間を、


最後の喜びを、


至福の瞬間を、


分かち合う、


共鳴し合う、


バンドと、


メンバーと、


私たちと、


私たちの心と、


メンバーの心と、


メンバーの魂、


そして、私たちの魂が・・・





























昨年9月のもやもや、不完全燃焼の感触は、もう、なかった。




(99.1.20.)


































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