客電が落ちてオーディエンスの歓声が沸き起こったが、ステ−ジ上は無人のまま。すると、なぜか『ロッキーのテーマ』が流れ、そしてフロアの前の方がざわつき出した。なんと、トラヴィスのメンバーがステージ上にではなく、ステージの下からフロアの通路の方に現れたのだ。やがて彼らはステージに上がったのだが、4人が4人ともガウンを着ていて、つまりボクサー風に入場したのだった。ガウンを脱ぎ捨てると早速スタンバイし、ライヴは『Selfish Jean』『Eyes Wide Open』という、新譜『The Boy With No Name』からの曲で幕を開けた。
フロントマンのフラン・ヒーリーは細身で小柄で、短髪のヘアスタイル。白いTシャツには、なんと「I Love Tokyo」とプリントされていた。選曲は、キャリアを総括するかのように新旧満遍なくセレクトされ、そのいずれもがどこを切っても美メロで叙情的で、という金太郎飴状態。MCも豊富で、父親になったこととか、3年前に日本に来れなくて残念に思ったこととかを、ニコニコしながら話してくれた。もともと轟音と勢いで圧倒するというバンドではなく、1曲1曲をじっくりと聴いて楽しむという形のライヴになるため、曲間はどうしても場内が静まり返ってしまい、それがバンドに対して申し訳ない気がした。
ハイライトになるのは、『Driftwood』や『Sing』といったトラヴィス・アンセムなのだが、一方で個人的にツボなセレクトもあった。ファーストアルバム『Good Feeling』からのタイトル曲、そして『All I Want To Do Is Rock』までもが披露されたのだ。トラヴィスがそのスタイルを確立するのはセカンド『The Man Who』においてであり、ブリットポップ期にリリースされたファーストは当時乱立していたギターロックそのものだった。セカンドで路線を変えたからこそ今のトラヴィスがあるのは間違いないのだが、個人的にはファーストの中に既に普遍性を感じさせるトラヴィス節の一端を垣間見ることができていて、封印されてしまうのはもったいないと思っていたのだ。
本編ラストをアンセム『Turn』で締めくくり、そしてヘッドライナー特権のアンコールだ。4人が横一列に並び、アコースティックスタイルでの『Flowers In The Window』で、フランが弾いていたアコギは、途中アンディやダグも加わっての三人羽織のようになって弾く場面もあった。そして、オーラスはこれまたピースフルな曲『Why Does It Always Rain On Me ?』。終始祝祭的なムードが漂っていたライヴは、今年のサマソニ私的ベストと言っていいだろう。3年前、クラブチッタのチケットを取っていながら中止になってしまって観れなくなった無念の思いが、やっと晴らされたのだ。