The Rock Odyssey 2004 Paul Weller

 2000年に岩手県で行われた、小岩井ロックファームというイベントへの出演はあったが、ポール・ウェラーが日本の野外フェスティバルに出演するのは今回が初めてだ。がしかし、出演時間は午後2時で、こともあろうに1日のうちで最も気温の高い時間帯。東京圏は連日猛暑に見舞われていて、この人あまり暑さに強くなさそうだし、大丈夫かななんて不安がよぎる。そしてもうひとつ不安なのは、他のアーティスト目的で来ているオーディエンスに、この人の音楽が伝わるかということだ。





 ほぼ定刻通りにバンドメンバーが登場し、『Has My Fire Really Gone Out?』『Hung Up』というソロ初期の曲でスタート。ウェラーは水色のTシャツ姿で、小刻みに体を揺らしながらギターをかき鳴らし、そして歌い上げる。カッコいい。この人はなんてカッコいいんだろう。いわゆるカリスマというか、近寄りがたいオーラを発する人ではないのだが、さりげない仕草のひとつひとつがイカしているのだ。


 そして、早くもサプライズが訪れた。聴き覚えがあるどころではない、軽快なインスト。なんと、スタイル・カウンシルの『My Ever Changing Moods』だ!最も気温が高い時間帯、しかもアリーナ席の私は直射日光をもろに浴びて汗だらだらの状態なのだが、にもかかわらず鳥肌が立った。それは、単にこの曲を観れた、聴けたという喜びだけではない。激動のアーティスト人生を経て今に至ったこの人が、喜々としてステージに立っているその姿に、素晴らしさを感じたからだ。





 そしてこの人を支えるバンドだが、ドラムのスティーヴ・ホワイトは今や説明不要だが、ギターはスティーヴ・クラドック、ベースはデーモン・ミンチェラで、共にオーシャン・カラー・シーンのメンバーだ(デーモンは脱退したと聞いた気もするが・・・)。この2人の従者ぶりにも、好感が持てた。スティーヴはギターソロやバックコーラスで要所を締め、サッカー日本代表のユニフォームを着たデーモンも、地味ながらリズムを刻んでいる。


 2002年秋のグラスゴーでのライヴを収録した、『Live At Braehead』というDVDがあるのだが、ここでの選曲は新譜『Illumination』を基調としつつ、ウェラーのキャリア集大成的な構成になっていた。何より、無理がなく楽しそうにしているこの人の表情が印象的で、そしてそれを支えているバンドのメンバーの姿にも、これまた好感が持てた。これは本国イギリスだからこそありうることで、まさか日本で拝めるとは、想像だにしていなかった。私の中にあったのは、冒頭に書いたような不安ばかりだったからだ。


 自らキーボードを弾きながら切々と歌う、『Broken Stones』に聴き惚れたのもつかの間、またまたお宝が飛び出した。同じくキーボードバージョンによる、スタイル・カウンシルの『Long Hot Summer』だ。それだけではない。ジャムの『In The Crowd』、アコースティックに移行してスタカンの『A Man Of Great Promise』、ジャムの『That's Entertainment』と、バンド/ユニット時代の名曲を惜しげもなく次々に演奏するではないか。『Live At Braehead』を観ている身としては予想できたことではあったが、それにしても大盤振る舞いが過ぎるというか、感激よりも驚きの方が勝ってしまった。





 さすがにバンド時代のオンパレードには終始せず、やがてソロの曲に立ち戻り、なんだかほっとしてしまった。じっくり聴かせる『You Do Something To Me』、ピアノの音色が心地よかった『Can You Heal Us (Holy Man)』、そしてレア曲『Foot Of The Mountain』。ジャムやスタカンの曲が引き立つのは、これらのバンド/ユニットの時期のみならず、この人がソロとしても質の高い音楽を作り続け、また成功したからこそのこと。だからこそ、ノエル・ギャラガーをはじめ多くの若いUKアーティストたちは、この人を慕うのだろう。3パターンのスタイルで成功した人というのは、日本はおろか欧米でも、ちょっと見当たらない。そう考えると、この人の存在そのものがとてつもなく大きく思えてくる。


 終盤は、『Peacock Suit』や『The Changingman』といった、ギターかきならしモードのアップテンポな曲で一気に攻め、そしてラストはジャムの『A Town Called Malice』。顔を真っ赤にし、汗をほとばしらせながら(スタッフが扇風機と送風機をステージに出していた)、それでも突っ走ってくれたポール・ウェラー。私にとってはジャムもスタカンもリアルタイムではなかったが、ソロになってからのこの人の音楽はもう10年以上リアルで聴き続け、日本公演があれば必ず足を運んだ。中には、不完全燃焼に終わってしまったときもあったが、それでもこの人の音に触れ続けてきて、ほんとうによかった。そしてこれは想定だが、この日初めてこの人の音に触れた人にも、その素晴らしさは伝わったと思う。





 フェスティバルというのは、各アーティストの持ち時間が厳密に決められている様子で、この素晴らしいライヴもきっかり1時間で終了。敢えて言わせてもらえるなら、この人の魅力はまだまだこんなものではない。『Sunflower』も、『Bull-Rush』も、『Mermaids』も聴きたかったし、優れた曲は他にもたくさんある。なので、ぜひ単独での再来日公演を!もちろん、スティーヴ・クラドックとデーモン・ミンチェラも帯同して!

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(2004.7.29.)















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