Fuji Rock Festival'03 Day 3-Vol.4 大豆鼓ファーム/Massive Attack







ボードウォークの終着点、すなわちオレンジコートの入り口は下り坂になっている。2日間の雨のために、足場がぬかるんで滑りやすくなっていることを予想していたのだが、実際はきちっと固められていた。スタッフの尽力だろうか。そしてこのステージの大トリは、大豆鼓ファーム~渋さ知らズオーケストラだ。


予定時間より少し早く、ライヴはスタート。ピアノによる弾き語りのしっとりとした曲から始まり、数10人によるバンド演奏となる。ステージの正面からは花道が突き出していて、やぐらも設置。仕掛けてあった火薬が弾け、またライトアップも美しい。そしてそれらの光に照らされているのは、花道で踊ったりポーズを取ったりしている白塗りのダンサーたちだ。白塗りの肌は、夜の景色の中では美しいというより妖しく映り、神秘的にも見えた。私が観たのは20分程度で、この後フィールド・オブ・ヘヴンを通って(キャンドルが数10本並んでいるところがあって、これまた神秘的だった)、グリーンに舞い戻った。





グリーンステージの「大トリ」がコステロというのが主催者側の言い分だが、個人的にはその後を受けるマッシヴ・アタックこそが、やはり大トリだと思いたい。欧米ではとっくにそのクラスになっているはずだし、今年リリースされた『100th Windows』とそのコンセプトを実践するライヴを以って、ここ日本でも彼らの存在は確たるものになるはずだ。


時間となり、ステージ前が暗転。後方には大きなスクリーンがあり、2003年7月27日...午後9時40分...という、今現在の時刻が表示される(字幕は日本語を多用)。続いて世界地図が浮かび上がり、マッシヴの地元ブリストルから線が伸び始め、世界各地の主要都市を経由して日本~苗場に到達。すると今度は、新潟県南魚沼郡湯沢町三国~という住所、及び北緯xx度...東経xxx度といった表示がされる。





まずは、新作のオープニングでもある『Future Proof』でスタート。暗かったステージが少しだけ明るくなり、メンバーの姿が確認できる。そういや、マッシヴもあのフジロック'97の2日目中止組だった。レッチリやプロディジーがリベンジを果たした今、マッシヴはその最後の大物になるかもしれない。


新作『100th Windows』でその世界観は拡大され、それまでに比べるとスケール感が格段に増した。と同時にその存在はメジャーになり、一般への普及度も高くなったはずだ。だけど、音の方は決してポップで聴きやすくなったわけでもなく、つまりは彼らのスタンスそのものはあまり変わっていないと思う。敢えて言うならば、変わったというよりメッセージ性がプラスされたのだ。


スクリーンに、無数の文字が浮かび上がる。先のイラク戦争でつぎ込まれた兵器の数、死者の数などが羅列。そしてその最後に、「発見された大量破壊兵器 0」という、なんとも痛烈な一撃が。更には各国語でさまざまなことばが飛び交い、日本語を追ってみると、「石油の」「ための」「戦争」というのが読み取れる。この表現行為は、はっきり言ってすごい。CDでは絶対に味わえないし、ライヴで行うとしても、それ相当の会場や設備が必要になってくる。マッシヴは3月に1夜限りの来日公演をしていて、このときはベイNKホールでやはり今回と同様のことをしたと聞く。だけどこの仕掛けを野外でやられた日にゃ、心臓を鷲掴みされたかのような感動だ。





私が最も好きなマッシヴのアルバムは、前作『Mezzanine』だ。新作が外に向けられたものとするならば、この作品は内部に封じ込まれた小宇宙をとことんまで突き詰めたような、密閉感と美しさに溢れていると感じている。『Angel』『Tear drop』といった曲が象徴的だが、それは今回も披露。ユニットの成長が演奏に反映されたかのように、密閉感ではなく開放感に溢れた曲に生まれ変わっている。意外だったが、嬉しかった。


曲毎にヴォーカルが変わるのもマッシヴならではで、いくつもの顔を持つ懐の深さを感じさせる。黒人女性のパワフルなヴォーカルあり、また金髪の女性による淡々としたヴォーカルもあった。演奏はダンス/デジタルというより、むしろロック色が濃いと思えるようなアレンジだった。スクリーンには、今度は「グローバル測定器」なる標記があって、さまざまな統計が次々に登場し、数字が羅列される。こんな具合であっという間に1時間以上が過ぎ、本編も終了してしまった。





アンコールは大作『Antistar』で始まり、そしてラストは『Group Four』。『Mezzanine』のラストの曲で(ボーナストラック除く)、個人的にもラストを飾るに相応しい曲だと思っている。終盤があまりにも凄まじく、あまりにもドラマティックに展開するこの曲は、まるで「世界の終わり」を感じさせる。なのに、ヴォーカルを執っている女性は淡々とギターを弾いていて、そのギャップにもまた驚かされる。


もう5年も前になるが、私はこのときのマッシヴの来日公演にも足を運んでいた。リキッドルームでのオールナイト公演で、前後に複数のDJが参加する、イベント形式だった。それから5年が経って今回のフジとなったわけだが、とても充実したライヴだったと思う。ゴールディーやトリッキーも、こんなライヴ、こんな音楽が表現できるように進化すればいいのになあ、なんて勝手ながら思ってしまった。































今年はとにかく雨に見舞われたが、それでも前夜祭を含む4日間、いろいろと楽しむことができた。毎年動員は伸びているようだし、フジロックが最早ロックファンだけのものではなく、一般にまで浸透してきているのではないかと感じている。私にとっては、1年の前半はフジロックを目指して生活しているような感覚だし(笑)、フジロックを過ごし終えたところで、やっとひと山越えたような安心感を覚えるのだ。気の早い話だが、今から来年の開催を楽しみにしている。というのは、今年はロラパルーザやオズフェストなどのために参加が叶わなかった、アメリカのヘヴィーロック勢がラインナップに名を連ねるのが、今から期待できるからだ。


(2003.9.22.)
















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