Fuji Rock Festival'03 Day 2-Vol.4 The Music/Iggy Pop







初日のグリーンステージ、ザ・ミュージックのロバートが、レッドマーキーでなんたらかんたら~と言っていた。英語が堪能ではない私は、てっきり昨年のフジのステージのことを話していたと思ったのだが、実はそうではなく、直前にキャンセルになったザ・コーラルの代役として、2日目マーキーのトリを務めるということだったのだ。


というわけで、またもやマーキーへ。前日はだだっぴろいグリーンステージで、数万人を前にしてのダイナミックなパフォーマンスをしてくれた彼ら。今回は対照的に、密閉された空間で、より近いところで彼らを観ることができる。私はステージ向かって左の前方に陣取っていたのだが、4人が登場するなり場内のヴォルテージが上がり、まさに昨年のマーキーの熱狂が再現されるのではないかという、期待が膨らむ。


キャリアも浅く、まだそれほど持ち歌のない彼らなので、セットリストは前日と全く同じになるかな、なんて予想していた。彼らの力量を以ってすれば、たとえ曲順がワンパターンであっても、そのことに対して退屈することはないだろうと思っていた。しかし彼らは、同じことの繰り返しをするつもりは毛頭なかったようだ。曲順はシャッフルされ、前日もそうだったけど新曲も織り交ぜる形でライヴを進められる。彼らは常に前を見据えていて、より高いところを目指しているのではないだろうか。というわけで昨年のマーキーの「再現」ともならなかったが、それは彼らが日一日と成長を遂げていることの証だと思う。





しかし、ロバートのヴォーカルは凄い。バンドとしてのコンビネーションも素晴らしいのだが、やはりなんといってもザ・ミュージックはロバートに尽きる思う。レッド・ツェッペリンは4人が4人とも凄まじい力量を持ち、それがぶつかり合って絶妙のグルーヴを生んでいたのだが、このバンドはロバートが突出していて、バンドを牽引している。そしてツェッペリンを引き合いに出したのは、ロバートが名前も同じロバート・プラント以来の、「奇跡の声」を持ったヴォーカリストだと感じるからだ。それは『The People』でクライマックスを迎え、場内を熱狂の渦に巻き込んだ。


翌3日目の昼過ぎ、マーキーでジェットのライヴを観ていたら、なんとロバートがいた。リラックスした様子のロバートは、単純にジェットのライヴ、そしてフェスの空気を楽しんでいる様子だった。彫りの深い顔立ちをしていて、そして体形はほっそりとしている。背格好も私とあまり変わらず、つまりあまり高くはない。こんな華奢で細身の体格のどこに、あの大地を揺るがすかのようなエネルギーが潜んでいるのかと、改めてびっくりした。





さてグリーンに戻ったが、実はこの日1日中、私はずっと考え事をしていた。それは、ビョークイギー・ポップのどちらを観るかということだった。両者は'98のときにもやはりバッティングしていて、どうして2度も同じことをするかねと腹立たしくなるのだが、しかしそうは言っても結局はどちらかを選ばなくてはならない。


序盤の1~2曲だけビョークを観て、途中で移動しイギーを観る、という目論見もあったのだが、この日のグリーンは山崎まさよしのところで30分遅れとなり、以降その遅れを引きずった状態になっていた。増してやイギーの場合、早く行かないとホワイトステージが入場規制になってしまう恐れがある。そこで断腸の思いでビョークを諦め(きっとまた来てくれるでしょう)、移動することにした。





この日の天候、日中は晴れていたのだが、夜になると雨が降ったり止んだりという状態に戻っていた。そんな中を、ほぼ時間通りに御大イギーポップが体をくねらせながら登場。例によって上半身裸で、そしてブルージーンズを履いている。


『Loose』『Down In The Street』と、いきなりのストゥジーズナンバー2連発。ステージ狭しと右に左に忙しく歩き回り、5年前のときの映像がちらちらと頭をよぎる。5年前のときはそのパフォーマンスぶりにほんっとにブッたまげたのだが、今回はそれを体験済みである分だけ、まだ冷静に観ることができた。曲間をほとんど切らさずに次から次へと演奏をすること。イギーのペースに、バックバンドも必死で食らいついていっていること。そのメンバーが楽器を交換する際、イギーはちゃんとMCでつなぎ、間延びした空気を作らないこと。一見ただめちゃくちゃやっているようでいて、実はとても計算高い人なんじゃないだろうか。


そして私にとって最も印象的だったのは、『Real Wild Child』の後のイギーだった。ステージにひざまずき、アォーン♪アォーン♪といったような雄叫びを挙げるイギー。読めた。これは犬の遠吠えを模したものであり、となれば、次に来るのはもちろん『I Wanna Be Your Dog』!!物凄い勢いで暴れまくるイギーだが、それが間奏になるとテンポを落とし、MCするイギー。そしてマイクともう片方の手でゴンゴンと拍手するような仕草をし、場内も手拍子になり、一体感が生まれる。名曲をいくつも持っている人だが、この1曲となったとき、私にとってはやはりこの曲なのだ。





もちろん勢いはこれだけに留まらず、『The Passenger』では「come on ! come here ! Japanese Motherfucker !!」とイギーがオーディエンスを「呼び」、5年前のときと同じく、数10人がステージに上がるという大騒ぎになった。アンコールもあって、ラストは『No Fun』『Louie Louie』で締めるという、磐石の運びだった。ただ・・・。


5年前のときと一見ほとんど変わっていないようでいて、やはりさすがに少し「老いた」と私は思う。口元にヒゲをたくわえたさまはなんだかハルク・ホーガンみたいで、ギラギラした危なさは薄まり、逆に「いい歳のとり方をしている紳士」という印象を持った。きっと今までは後先考えず無理をしてきたのだろうけど、今回は随所でセーブしているようなところが伺えた。まさかこの人のライヴを観ていて「計算高い人」だなんて、感じるとは思わなかったもの。


イギーは99年に『Aveune B』という、自身の半生を振り返るかのような作品をリリースしている。その内容だが、これがほんとうにイギー・ポップの作品なのかと驚かされる、アコースティック主体の静かな曲が並んだ。また今年はストゥージズのメンバーとも何度かステージで共演していて、この人自身振り返りモードに入っているところがあるのかもしれない。そして今後、自分がこれまで築き上げてきたキャリアや、否応なく訪れる老いとどう向き合っていくかというのは、この人にとっての重要なテーマになっていくはずだ。

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(2003.9.14.)
















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