Fuji Rock Festival'03 Day 1-Vol.3 The Music







この時間帯、ヘヴンのUAにグリーンのリバティーンズと、共に気になるアーティストはいた。のだが、雨は一向に止む気配がなく、体力的にも決して楽な状態ではない。そこで、夕方以降の観たいアーティストのときにへばらないためにと、ここでいったん引き上げることにした。場内駐車場に停めてあるクルマまで戻り、Tシャツを着替え、シートを倒して楽な姿勢にし、ヒーターをつけて休む。このときの車内のBGMは、偶然ながら次に観る予定のザ・ミュージックだった。





1時間ほど休み、靴も履き替えて再び場内へ。毎年拠点にしていた、グリーンステージ向かって左前方に、この日初めて行ってみる。雨のためにあちこちぬかるんでいて歩きにくく、そして斜面は滑りやすくなっていた。しかし、こんな悪天候であるにもかかわらず、ステージ前は人の密集度が高く、ものすごいことになっている。


ステージ前をこんな状態にしたのは、2年連続の参加となるザ・ミュージックだ。昨年のレッド・マーキーでのステージは、今や伝説。時期的に上昇気流に乗っていたバンド、その場に集まったオーディエンスの熱狂ぶり、そして夏の暑さ・・・。こうしたファクターが全てプラスに働き、かつ有機的に融合した結果が大きな波動となり、私も少しの時間ではあったがそれを体感した。このときを含み、昨年だけで実に3度も来日。そして今回となるのだが、「またか」という気持ちが起こらないのは、彼らがそれだけスペシャルな存在になっていたことの証であり、「またか」どころか、「また観たい」と思わせてくれるパフォーマーだからだと思う。





オープニングは、アルバムの1曲目でもある『The Dance』。叩きつけられるようなドラムのビートが、そしてロバートの歌が、私たちを別世界へと誘っていく。グリーンステージのキャパシティをモノともせず、オーディエンスをモッシュさせる凄まじい勢い。この勢いは昨年のマーキーを思い出すが、昨年は初々しさで押しまくっていたのが、1年経ってたくましくなったというか、風格さえ漂っている。


このバンドの持ち味は、ギターのアダムが放つ印象的なリフと、ロバートのヴォーカルだと思う。というか私にとっては、とにもかくにもロバートの声だ。この日はサッカー日本代表のTシャツを着て登場し、例の長髪をなびかせながらあの声を爆発的に張り上げる。ノドを痛めないのだろうかと、観ている方が心配になるくらいだが、終始かなり高いキーで歌われる。


そしてMCはほとんど1曲毎に入り、「アリガトウ」「アリガトウ ベリーマッチ」など、かなり日本語を使用。バンドのオフィシャルサイトでは、昨年のクアトロ公演及びフジロックの模様が、ストリーミングで楽しめる。彼らも、日本でのライヴを特別なこととして記憶してくれているのだろうか。そして先にも書いたが、今回が4度目の来日になるということは、バンドが成長していくそのさまを、日本のファンは逐一フォローできていたことになる。


その成長ぶりだが、ロバートは曲により歌だけでなくギターも弾く。勢い一辺倒ではなく、自らの技術を向上させんとする気構えがうかがえるし、それは他のメンバーにも派生しているはずだ。更には、新曲も何曲か披露。よくよく考えてみれば、昨年のフジのときはまだアルバムのリリース前で、そしてリリース後もツアーに明け暮れて世界中を駆け巡っていたのではないのか。なのに、この創作意欲と前のめりの姿勢いったら、何と凄まじく、何と驚異的なことか。





そして、そのときはついに来た。ロバートはオーディエンスに背を向けるが、体を反らせてマイクをオーディエンスの方に向ける。「ニホン」とまずは言い、次の曲は君たちのために~というようなことを英語で言った後に始まったのは、アダムの手によるシンプルなリフだった。一瞬緊張感が走るが、しかしすぐその後に場内はざわつき、そして曲が始まったとき、溜まりに溜まったエネルギーが一気に爆発したような大騒ぎになった。


ロバートの甲高い声が最も生かされる曲であり、わかりやすいサビは大合唱を生む。会場全体が揺れ動くかのような、錯覚に襲われる。『The People』だ。そして思ったのは、この曲はタイトル通り、この日この場に集まった、私たちのために歌われるべき歌だということだ。空は雨雲で真っ白。そして、冷たい雨は相変わらず降り続いている。しかしこうした悪天候であることが、忘れることができた一瞬だった。





昨今は、アルバム1枚で消えて行く新人バンドなど決して珍しくない。しかしザ・ミュージックは、最早新人~2年目という枠で捉えるには、あまりにも規格外のバンドになってしまった。彼らは間違いなく、今後も活動を続けてくれると思うし、もし仮にそうはならなかったとしても、ロックの歴史と人々の記憶の中に、共に刻まれるバンドになるに違いない。


(2003.9.9.)
















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