Countdown Japan 06/07 12/31-Vol.1 Panta/Cosmo Stage







麗蘭に続き、オーガナイザー渋谷陽一が前説として登場した。このフェスでは、毎年渋谷レコメンドと称したアーティストのエントリーがあるらしい。つまりは若いファンに渋谷本人が紹介したいアーティストということで、今回はPantaが選ばれたということだ。その渋谷のコメントにも、力が入っていた。「ロックとは趣味ではなく思想である」「頭脳警察から一貫して日本のロックを体現し続けてきたレジェンドであり、そしてロックの未来でもあるPanta!」こうしたナビゲートに促され、Pantaとバンドメンバーがステージに姿を見せた。





まず、Pantaの体形を見てびっくりした。ここ数年のこの人はすっかり肥えていて、頭脳警察やソロ時代のシャープな面影ではなくなっていた。いや、なくなっていたはずだった。それがダイエットに成功したのか、幾分かスマートになっていたのだ。次にイントロのドラムと、それに絡むギターのリフにゾクゾクさせられた。私はフロアの中盤辺りに陣取っていたのだが、このイントロだけで全身に電流が走り、思わず前方に走って行き、最前列をゲットした。見上げると、私のすぐ目の前にPantaが堂々と立っていた。


かつてのPanta & Halがそうだったように、Pantaはギターを手にすることはせず、シンガーに徹していた。黒を基調とした衣装をさりげなく着こなし、マイクスタンドを巧みに操っていた。そしていよいよ歌い出したのだが、これが凄みを帯びており、鬼気迫るものがあった。緊張感が、観ている側にまでひしひしと伝わってきた。4年前のソロ作『波紋の上の球体』は、言わば大人の鑑賞に耐えうるロックで、50歳を越えたということもあってか、この人もその年齢なりのロックをやるモードにシフトしたのだと思っていた。しかしここでのPantaは戦闘モードで、長らく潜めていたであろう「牙」を、むき出しにしていたのだ。





そのPantaを支えるバンドは、ギターにはPantaと付き合いの長い菊地琢己。間奏になるとステージ前方に躍り出てソロを披露し、超絶テクを発揮していた。ベースは中谷宏道で、この人はPanta & Halのメンバーでもあった人。他にキーボードとドラマーがいて、いずれもが腕利き揃い。Pantaの後押しをすることに成功している。このバンドは名を「陽炎(かげろう)」と言い、先日クリスマスイヴに結成されたのだそうだ。


このメンバーで収録され先日リリースされたのが、『Caca』というアルバムだ。その内容は、これまでライヴでしか披露されて来なかった未発表曲を新録したもので、タイトルはラテン語の幼児語で「うんこ」とのこと。Pantaはここに「宿便」という意味を込めていて、今まで眠っていた曲を出し切ってしまおうという意図らしい。そしてこの場では、『Mushus~ムシュフシュの逆襲』『Melting Pot』といった、『Caca』からの曲が次々に披露される。そのどれもがPantaの引き締まったパフォーマンスに乗せて発せられ、異様なまでの輝きを放っている。


そしてラストは、なんと頭脳警察の『悪たれ小僧』だった。原曲は石塚俊明のパーカッションが魔法のようなリズムを刻んでいるのだが、ここではドラマーがその役を担い、このリズムに合わせてPantaが拳を振り上げながら雄叫びを発し、前方に詰めているオーディエンスもそれに呼応するように拳を振り上げ雄叫びを発する。頭脳警察のライヴでは必ず漂っていた独特の緊迫した空気が再現され、この場がフェスではなくPantaの単独ライヴであるかのような錯覚に陥る。歌い終えるとPantaはさっと身を引いて袖の方に下がり、他のメンバーもPantaに追随するように風の如くステージを後にした。





Pantaが今回エントリーされたことは、本来なら喜び歓迎すべきことのはずだった。頭脳警察が活動していた頃には、生まれてもいなかったであろう世代が大半を占めるこのフェスティバルにおいて、日本のロックを背負い続けてきた「本物」を彼らに体感してもらうのは、とてもいい機会になるからだ。がしかし、私は不安だった。物凄く不安だった。というのは、フェスではアーティストとオーディエンスとが噛み合わず、消化不良に終わってしまうのもままあることで、特にキャリアの長いアーティストほどそうしたエアポケットに陥りやすかったからだ。実際、フジロックでは何度もそういう場面に出くわしていたし、この人もそうなってしまうのではという恐れがあったのだ。


しかし、Pantaはやった。決して満員大入りではなかったし、演奏時間も30分程度のコンパクトなものだったが、若い世代に仕掛けようとする姿勢がにじみ出た、感動的なステージだった。新バンドを結成したことや、『Caca』のリリースで自身のキャリアにひと区切りつけたことなど、Panta自身にとっても今現在は重要な局面を迎えていると思われる。なお、先の『悪たれ小僧』は髭(HiGE)がカヴァーしていて、2月公開予定の映画「キャプテン・トキオ」で使用されている。そしてPantaは、この映画の音楽監督を務めているのだ。


何がこの人をそうさせたのかはわからないが、現在のPantaは数年前とは異なり、前のめりになって今再び最前線に立とうというモードになっている。そういうこの人の生きざまを嬉しく思うし、今後もこの人の活動から目が離せなくなりそうだ。

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(2007.1.3.)















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