Countdown Japan 06/07 12/30-Vol.2 東京事変/Earth Stage







斉藤和義が終わった直後から、大勢のオーディエンスがステージ前方に詰めてきた。その多くはエルレガーデンのTシャツを着ていたのだが、もちろん東京事変を楽しみにしているファンも少なくはないはずだ。彼らの単独公演は需要と供給の原理に反して未だにホールクラスの会場で行われていて、フェスにもあまり出演していない。彼らをナマで観るのは今回が初めて、というファンもかなりいるはずだ。





そして定刻となり、スクリーンに「東京事変」の文字が浮かんだのと同時に客電が落ちる。大歓声が飛び交う中、メンバーがゆっくりとステージに登場。ステージ上は暗くなっていたが、ドラムのイントロを経て『秘密』の歌い出しになったときに明るくなり、椎名林檎が半身のスタイルでマイクスタンドの前に立っていた。それにしても、オープニングが『秘密』とは驚きだった。アルバム『大人』のトップの曲ではあるが、とてもコマーシャルとは言い難く、フェスでコレはアリなのだろうかと思ってしまったのだ。


しかし、続くは林檎女史の口上を経ての『喧嘩上等』で、これでわかった。椎名林檎は、ベストヒット構成のフェスティバル仕様ではなく、あくまで今現在の東京事変のスタイルを以って臨むことを選択したのだと。メンバーの立ち位置は単独公演時とほぼ同じで、前方中央の椎名林檎を囲むように、右から左へドラムの刃田、ベースの亀田、ギターの浮雲、そして鍵盤の伊澤という並びになっている。林檎女史はおかっぱのヘアピースを被り、グレーのコートをまとい、そしてタイトスカートをはいていた。この人はパンツスーツというイメージがあったので、これにもびっくりした。更に驚かされたのは、刃田がスキンヘッドになっていたことだった。


コートを脱いで白とイエローのツートンカラーの衣装をオープンにした林檎女史は、続いてピアニカを手に取った。そして発せられたメロディーは『丸の内サディスティック』のイントロで、ここで場内が一段と沸いた。ソロ時代の曲として懐かしさを漂わせつつ、しかしその輝きは現在でも失われてはいない。更にはバンドバージョンの『林檎の唄』、林檎女史自らギターを手に取っての『群青日和』と(伊澤もギターで参加)、前半はコマーシャルに寄ったアプローチで仕掛けてきた。





しかし、この後空気が一変。新曲『花魁(おいらん)』で、2月にリリースされる新譜『平成風俗』に収録されている曲だ。これが凝った音作りがされていて、そして歌詞も英語。かなりアヴァンギャルドでパンク風の仕上がりになっていて、場内も先ほどまでの音楽を共有し合うモードから、事変/林檎ワールドに吸い込まれていくモードに変貌している。続く『ミラーボール』も、既存とは別バージョンのデジタルに寄ったアレンジが施され、このバンドの表現手段の多彩さが、ボブ・ディランやプリンス並に懐が深いことを伺わせる。


『夢のあと』は、「シンガー」椎名林檎の独壇場となった。演奏は最小限に抑えられ、林檎女史のヴォーカルが最大限にまで発揮される。2万人ものオーディエンスが詰めているとは思えないくらい場内は静寂に包まれていて、そのほとんどの視線は林檎女史に注がれていた。それを真っ向から受けて立つ彼女は、鬼気迫る熱唱をしてみせた。巨大ステージで独唱に近い形で歌が歌えるというのは、アーティストの側にとっても答えられない快感なのではないだろうか。


『ブラックアウト』を経て、ラストは亀田のウッドベースがイントロの『透明人間』。サビに差し掛かると期せずして場内から手拍子が沸き、再び一体感が復活。自らのパートを歌い終えた林檎女史は、最後にさらりと挨拶をして(これがこの日唯一のMCだった)、ひと足先にステージを去った。残された4人は淡々と演奏を続け、それもやがて終了。4人はおのおの手を挙げたりピックをフロアに投げ込んだりし、そしてステージを後にした。





実はこの日、密かに期待していたことがあった。東京事変とZazen Boys、それにモーサム・トーンベンダーが、同じ日にエントリーされていた。椎名林檎はこの2組のアーティストの曲にゲスト参加していたこともあり、彼らのステージに飛び入りすることが充分ありうると思ったのだ。しかしフタを開けてみれば、Zazenのステージにもモーサムのステージにも、彼女が姿を見せることはなかった。それはちょっぴり残念だった。


しかし、東京事変のライヴを観て納得させられた。きっと彼女はこのライヴに期するものがあり、賭けていたのだと思う。単独公演の延長ではなく、といって多くのアーティストが選択するであろうベストヒット仕様でもなく、現在のあるがままをさらし、更に今後の展開もちらつかせてみせることで勝負に出たのだ。MCが最小限に抑えられたのも好材料だった。正直に言って、彼女はしゃべりが上手いとは言えないからだ。こうして練りに練り上げられたステージを展開し、彼女とバンドは勝った。そしてこの勝ち方には、物凄い意味があると思う。




(2007.1.3.)















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