Presence プレゼンス

Sales Date:1976.3. 1. Achilles Last Stand 4. Nobody's Fault But Mine
Produce:Jimmy Page 2. For Your Life 5. Candy Store Rock
3. Royal Orleans 6. Hots On For Nowhere
7. Tea For One






相変わらずツアーに明け暮れるツェッペリン。それは税金逃れのための国外逃亡の旅でもあった。しかし、バンドをアクシデントが襲う。75年8月、ジミー・ペイジとロバート・プラントは家族ぐるみでバカンスを取っていた。そのさなか・・・。




ジミー・ペイジを除く2家族が乗ったクルマが不運な事故に巻き込まれた。子供もけがを負い、運転していたプラント夫人が最も重傷だった。そしてプラント本人もまた、半年間歩行不能の状態にまで追い込まれてしまった。




バンドは予定していたツアーの延期を余儀なくされ、その代わりにできた時間をアルバム制作に充てた。ほとんどの曲がジミー・ペイジとロバート・プラントによって作られ、後からジョン・ポール・ジョーンズとジョン・ボーナムが馳せ参じてレコーディングが進められる形となった。レコーディングに使用したスタジオは、ローリング・ストーンズが『Black And Blue』のレコーディングに使用することが決まっていたため、じっくり時間をかけることはできない状況だった。が、ジミー・ペイジは驚異的なペースでミックスを仕上げた(こうした状況から、『Presence』のアウトテイクはほとんど存在しないと言われている)。




このアルバムは、何と言っても1曲目『Achilles Last Stand』にそのカラーが象徴されていると思う。迷いのない、自信が確信へと変わった力強い音。10分を越える大作で、これがシンプルでいながら圧倒的。ジミー・ペイジのギターワークと、ロバート・プラントの雄叫びが軸となり、全編を貫く。大作でありながらこれが少しも間延びしておらず、曲が終わってもう10分経ってしまったのかという密度の濃さを誇っている。




ほとんどの曲は『Achilles』の流れを汲んだ、シンプルでストレートで圧倒的なハードロックチューンだ。ツェッペリンは『Π』でハード路線を極めた後、アコースティックやエスニックなど、より多様な音楽性を開拓し自らの血肉と化していった。そうした歩みを経て、ここでは再びハード路線に立ち帰っているのだが、もちろん単なる原点回帰であるはずがなく、そこには単に音作りだけでは培うことのできない、つまりはレッド・ツェッペリンが世界中をかけめぐって制覇してきたライヴバンドとしての「誇り」がにじみ出ているのだ。




ラストナンバー『Tea For One』だけは少しリラックスしたブルージーな曲、という見方が定着しつつあるようだが、私はそうは思わない。この曲の後半のギターリフこそ、燃え尽きんばかりの壮絶さ、一瞬の中でこそ美しく揺らめく炎のような妖しさがにじみ出ていて、まさにアルバムの終局を飾るに相応しい輝きを放っていると思えるのだ。





























ジャケットはまたまた不思議なアートワークで話題になった。一般家庭や日常生活の中に唐突に存在するオブジェクト。まるで映画「2001年宇宙の旅」のモノリスのような黒いオブジェクトは、過去のどのツェッペリンのアルバムジャケットよりも不可思議で、今もってはっきりとした説明がつかない。が、メディアやファンがあれこれ詮索すればするほどバンドの思うつぼで、こうした謎解きの要素を備えているのもツェッペリンの魅力のひとつだ。














かの渋谷陽一氏は、『Presence』を『Π』以来のツェッペリンの極みと評し、また氏の最も好きなアルバムでもあるそうだ。もう15年以上前の話になるが、NHK-FMで「サウンドストリート」という音楽番組があった。毎週月~金まで日替わりDJで放送されており、中島みゆきや坂本龍一、佐野元春など、今考えると蒼々たるメンバーの名が揃う中に、渋谷陽一の名前もあった。




その最終回は『Stairway To Heaven』で始まり、曲の合間合間のトークでは渋谷氏が歌詞の解説をしつつ、レッド・ツェッペリンというバンドがどれほど凄いバンドであったのか、同時に番組のラストを飾るに当たっての自分の思いを語った。そして最後の最後に流されたのが『Achilles Last Stand』である。この曲を当時初めて聴いた私は、その後1時間身体を動かすことができなかった。これは私が生涯ただ1度、金縛りに遭った1時間である。












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