Bob Dylan's Discography　Best Album

　66年7月にバイク事故を起こし、シーンから姿を消したディラン。今では作品のインターバルが2年や3年空くことなど珍しくもないが、この当時はそうはいかなかったようだ。コロンビアは慌ててディランのベスト盤を発表。60'sのディランの代表作が凝縮され、無人島に持って行くにはもってこいのアルバム。『Positively 4th Street』が初のアルバム収録である。

　『第1集』とは1曲もダブらない選曲。そしてヒット曲や代表曲を集めた中にも、マニアを唸らせる本邦初公開の曲も多数収録している(特にDisc2)。『～ Masterpiece』はザ･バンドが同年『Cahoots』で発表したばかり。『I Shall Be Released』はディラン代表作のひとつであり、ライヴでもハイライトを飾ってきた曲だ。及び『You Ain't Goin' Nowhere』『Down In the Flood』は隠遁時代にザ･バンドと共に作られ、後の『The Basement Tapes』にも収録。今回このアルバムのために再レコーディングされている。発表時期は『New Morning』の1年後で、アルバム制作としては停滞期。

　LP5枚組、CDでも3枚組というヴォリュームでのベスト盤。しかし、これはディランを知るには最低限の枚数だろう。ヒット曲を網羅しているのはもちろんだが、未発表曲や未発表ヴァージョンも多数収録し、こうした構成はこんにちのBox Setのはしりと言えるかもしれない。よって初心者よりもむしろヘヴィーなファン向け。『Mixed-Up Confusion』『Can You Please Crawl ～』の2曲は、日本とオーストラリアでのみ編集され発売された『Masterpieces／傑作』(廃盤)が初出だが、録音はいずれも60'sだ。

　『第2集』からなんと23年後に発表された『第3集』。もちろん過去2作とは収録曲も対象時期もダブっていない。扱っている年代が幅広いため、この時期だけであと何種類かのベスト盤が作れそうだ。『Hurricane』『Forever Young』『Jokerman』の連発には思わずグッときてしまい、続く新曲『Dignity』の軽快なサウンドにほっとさせられる。『Series Of Dreams』は『Oh Mercy』のアウトテイクで、『The Bootleg Series』のラストナンバーとして初出。近年のツアーではよく演奏されている。

　ディランの長いキャリアを1枚のCDに収めようとするのがどだい無理な話で、しかし一方では若いリスナーの入門盤として、このようなアイテムが必要とされるのだろう。本作はビートルズの『1』と同様の位置付けとでも言えばいいのか。代表曲を満遍なく収録したお徳用だが、私は入門盤としては『Greatest Hits 1』の方をお薦めする。必ず"その次"が聴きたくなるはずだから。