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エースをねらえ!(原作)

公開日: : 最終更新日:2021/03/19 エースをねらえ!

エースをねらえ!文庫版

テニス少女マンガの名作『エースをねらえ!』について、アニメは先に観ていたが、後追いで原作を読んだ。1巻から6巻までが第一部、7巻から10巻までが第二部だ。

特に第二部では、アニメには登場しないキャラクターが結構いた。岡ひろみのライバルであり友人でもある宝力。緑川蘭子の後輩で、軟式から転向した樋口。かつて、ひろみがお蝶夫人を慕ったように、ひろみを慕う後輩の英玲。宗方に風貌も性格も似ている後輩で、ひろみがコーチをすることになる神谷。新聞部の千葉は、アニメのOVAの方では観ているが、はてテレビシリーズの方にはいただろうか。尾崎はテレビシリーズでは無骨な風貌だったが、ここでは藤堂と同じく甘いマスクだ。

実在の選手も、そのまま出てくる。ワタシにわかったのは、クリス・エバートとビヨルン・ボルグ。恐らく、今なら肖像権の問題で実名の適用は難しいと思われるが、さすがに当時はそこまでシビアではなかったのだろう。連載は72年から80年までだそうで、当時はオーストラリアがテニス王国だったらしい。ひろみたちは遠征しているし、オーストラリア人のコーチがついたり、プロ選手がひろみをダブルスのパートナーに指名したりしている。

第2部後半になると、ひろみや藤堂たち個人の活躍のみならず、日本のテニス界を世界レベルに底上げせんとする構想が現実的になってくる。藤堂やお蝶夫人など選ばれしプレーヤーが全国各地をまわって若いプレーヤーを教えるシーンは、地味ではあるが壮大だ。アニメはやはりキャラクターの活躍に焦点が当てられていて、それはそれで仕方がないことなのかもしれないが、ワタシにとっては原作の方が数段面白い。

ワタシにとってのこの作品の見所は、ひろみの周囲にいる人たちの「取り巻き方」だ。あこがれのお蝶夫人、蘭子、ボーイフレンドの藤堂、尾崎、千葉、ひろみの両親、ひろみの親友愛川牧。年長者たちはひろみを気遣い、包み、導き、伝えていく。自分からどんどん遠い存在になっていくはずのひろみを、牧は変わらず接している。

そして、その最たるはコーチの宗方であり、それに次ぐのが宗方の親友にして、宗方の死後コーチを引き受けた桂大悟だ。主人公の憎まれ役として登場し、やがて悲しい境遇や選手生命を断たれたこと、余命がいくばくもないことなど、徐々に宗方の過去が明かされていく。だからこそ、宗方のことばのひとつひとつが重い。アニメにはなかった(と思われる)、印象的なセリフがいくつかある。

おれは、お蝶でもお蘭でもなく、お前を選んだ。
おれの27年の人生、人の80年に劣っているとは思わん。

6巻のラスト、ひろみたちの海外遠征を目前にして、宗方は入院。後から行くと言いはしたが、それが叶わないことは自身がよくわかっていた。藤堂だけを呼び戻し、ひろみの後を託す。そして7巻。遠征先にて、ひろみ以外は宗方の死を知るが、それをひろみに気づかせまいと振る舞う。そして、帰国後宗方の死に直面するひろみ。狂乱状態となるが、ここでも周囲がひろみをサポートし、そして桂が宗方のラケットをひろみに渡す。

悲劇性を帯びた宗方の存在は、死することにより絶対的になった。しかし一方の桂も、困難に打ち勝つべく仏門に入り、自らを追い込むことでひろみや藤堂らの師たらんとする。そして桂は、体の問題で自らはコートに立てなかった宗方と異なり、コート上でもひろみたちと相対する。この2人の師によって、プレーヤーとして、人間としてのひろみは、より成熟していく。

魔球を否定し、荒唐無稽でご都合主義的な勝利に安易には結び付けない。次につながる負け方や、慢心に通ずる勝ち方があることも説いている。肉体の鍛練以上に精神的な成長を促す描写が多く、スペリチュアルなスポ根少女マンガのように思う。連載終了から40年以上が経つが、その内容の多くは色あせておらず、今読んでも胸に染みる傑作だ。

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