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『池上遼一本』を読んだ

公開日: : 池上遼一

『池上遼一本』

小学館に漫画家とその人の漫画を掘り下げる「漫画家本」というシリーズがあり、その中に池上遼一版があることを知り、入手した。

冒頭が、池上遼一ファンを公言している高橋留美子のインタビュー。高橋は、メジャーになった後以上に、なる前のガロに投稿していた頃までの池上が好みとのこと。続いて池上本人のインタビューになり、福井県に生まれ、少年期はよりも横山光輝を好んで読み、やがてさいとうたかをへと流れる。手塚の丸っこい絵よりも、劇画タッチの方に惹かれていたとのことだ。

ガロへの投稿を見た編集者の口利きで、池上は水木しげるのアシスタントになる。水木がその頃の自分の事務所の面々を描いた短編漫画が、掲載されている。日常の風景だが、池上の連載が決まるところでラストとなり、水木は「まもなくかれは第一線におどり上がった」と締めくくっている。ワタシは未見だが、朝ドラ「ゲゲゲの女房」で窪田正孝が演じていたアシスタントは、池上がモデルとされている。

この本は昨年出版だが、昨年は池上の原画展が故郷福井で開催されている。池上が行った講演が記録されていて、写真も載っている。池上が自身の漫画家人生をかたっているのだが、面白かったのは、何度か壁を感じたことを隠さず語っていることだ。

第一の壁が、いったん就職したのをやめて漫画家を志したが仕事が全くなかったとき。第二の壁は、水木プロから独立して何本か書いたが人気が出なかったとき。第三の壁は、『男組』で成功した後に来たというラブコメブーム。第四の壁は、大友克洋だそうだ。晩年の手塚も大友をかなり意識していたので、大友の登場は漫画界にどれほどインパクトがあったのかと思わされる。

個人的に最も読みごたえがあったのは、池上と組んだ原作者たちが寄せたテキストだ。『男組』の雁屋哲、『舞』の工藤かずや、『サンクチュアリ』『HEAT』の史村翔(武論尊)らだ。共通しているのは、自分が書いた原作が池上の手によって素晴らしい作品に生まれ変わっていることへの驚嘆だ。その突出した画力をリスペクトする一方、下手な原稿は出せないというプレッシャーも感じていたとのこと。やっている側はしんどいかもしれないが、読んでいて羨ましい関係だ。

池上遼一は、ワタシが思う中では日本で最も絵がうまい漫画家だ。劇画タッチの繊細な線から生み出される人物は、男女を問わず美しい。恐らくは同業の漫画家からもリスペクトされ、あるいは嫉妬されているはずだ。個人的には『サンクチュアリ』『HEAT』も素晴らしいが、『男組』が読んだ漫画の中での最高峰だ。末期だけだったが、リアルタイムで享受できた巡り合わせには感謝している。この本は、表紙が『男組』主人公の流全次郎、そして巻頭カラーも『男組』のイラストで、これだけでもうテンション上がりまくりである。

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