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クラフトワーク(Kraftwerk)@オーチャードホール 2019年4月19日

公開日: : Kraftwerk

クラフトワーク(Kraftwerk)@オーチャードホール

過去何度かライブに行かせてもらっていて、はグッズ争奪率の高いアーティストだと知ってはいた。そして今回、その凄まじさには一層拍車がかかっていて、ウイークデー公演にもかかわらず、連日先行販売で売り切れが続出するという状態。ワタシは先行販売開始30分前に列に並び、自分がほしいアイテムはなんとか入手することができた。

開演10分前にステージのバックドロップに映像が浮かび、SEが流れる。そして定刻になると客電が落ち、ステージ向かって右の袖からクラフトワークの4人が登場。『Numbers』から『Computer World』というオープニングは、彼らの単独公演では定番だ。しかし今回は、バックの映像が3-Dで、客は入場時に配布された3-Dメガネをかけてライブを堪能する。そして、この3-D映像のクオリティが高く、数字の羅列がスクリーンを飛び出して迫ってくる感覚だ。個人的には2013年の赤坂BLITZや2014年のソニックマニアでも体感しているのだが、改めて驚かされた。

過去の来日公演は、そのほとんどがライブハウスやフェスティバル、つまりスタンディングだった。今回は椅子席の公演につき、よりじっくりとライブに集中。ワタシの席は向かって右のファルク・グリーフェンハーゲン側で、この人は恐らくVJ担当と想定している。4人の中では最も動きが少ないが、入場時に右手でコンソール下のスイッチを入れたのを確認できた。

ヘニング・シュミッツ(ラルフ・ヒュッターの隣)とフリッツ・ヒルパート(ファルクの隣)は、ペダルを踏み込んだりコンソール上を忙しく操作したりと、そこそこ動きがある。フリッツはドラムやパーカッション、ヘニングはベースやプログラミングを担っていると思われる。この2人は、わずかだが表情を崩すときがある。両端の2人やかつてのメンバーの無表情ぶりを思えば、人間味を出しているのも驚きに値する。

そしてラルフ・ヒュッターだ。リーダーであり、リードヴォーカルでもあり、キーボードでメロディーラインを弾き、と、まさにバンドの核を担う人だ。見た目は、数年前からほぼ変わっていない。蛍光色に発光する黒の全身スーツを着た70オーバーの男性というのは、時に異様に思えることもなくはないが、いや、それはこの人の音楽に対する姿勢が今なお錆び付いていないことの証だ。

『The Man-Machine』はイントロのテンポがやたらとゆっくりで、一瞬焦った。しかしミスでもトラブルでもなく、ラルフが敢えてやっていたようだった。『Spacelab』では、UFOが宇宙から日本列島に向けて飛来し、富士山の脇を通過して東京に行き、この会場オーチャードホール前に着陸。日本いや東京仕様に映像を仕上げてくれているのが、毎度のことながら嬉しい。

大作『Autobahn』を経て、『Geiger Counter』から『Radioactivity』へ。前者の、まるで心臓の鼓動のような予兆を経て、後者の日本語での歌詞へ。ラルフが日本語詞ではじめて歌ったのは、2012年のNo Nukesのときと思うが、それから7年が経ってもメッセージ性が薄れることはない。それはつまり、世の中が正しい方向に向かっていないことの裏返しではないのだろうか。

個人的には結構気に入っている『Tour de France』は、モノクロのツール・ド・フランスの様子を交えた映像だ。先に演奏された『Model』もそうだが、必ずしもテクノロジーに寄っているのではなく、人間の生々しさの部分を表現発信の手段のひとつとして残しているのも、クラフトワークの魅力だ。

『Trans-Europe Express』で本編を締めくくり、そしてアンコールは『The Robot』。ステージは無人で、赤シャツ黒ネクタイの4人を模したロボットの動きが映像として流される。中盤でバックドロップのスクリーンがゆっくりと下がってきた。そしてそこには、等身大の4体のロボットが!あせって、自分の記憶を呼び起こす。2014年でも、2013年赤坂ブリッツで個人的に観た4公演でも、ロボットはなかった。3-D映像が、表現手段だった。それ以前、2004年や1998年の公演で登場したロボットは、バストアップ型だった。今目の前にしている、本物の4人と全く同じ黒の全身スーツのロボットがお目見えするのは、日本では恐らく今回の来日公演が初ではないか!

衝撃の余韻に浸る間もなく、実物の4人が再登場。アンコールでは定番の『Pocket Calculator』で、途中から日本語詞の『Dentaku』へとシフトするのもお馴染みだ。場内、ここまで客は映像や演奏に見入るモードだったが、ここでは曲に合わせて手拍子に。やポリスやなど、日本語詞の曲を作ってくれるアーティストはぽつぽついるが、『Dentaku』はその代表的な存在だと思う。

この後の展開は意外だった。『Aéro Dynamik』から『Planet of Visions』ときた。まるで、先ほどの『Dentaku』であったまった場内の熱を冷ますかのような曲のセレクトだが、いや、これは彼らの「攻め」なのだと思った。そして、『Boing Boom Tschak / Techno Pop』から『Music Non Stop』という、鉄壁とオーラスへ。向かって右のファルク・グリーフェンハーゲンから、ひとりずつ自分の持ち場を離れて右端に立って礼をして袖に捌けていく。フリッツ・ヒルパートとヘニング・シュミッツは、それぞれソロプレイを繰り広げてステージを後に。そして最後、ラルフ・ヒュッターが鍵盤でソロをプレイし、ステージを去っていった。

会場から出るとき、グッズ売り場が撤収されていたのがわかった。ということは、つまり開演前にすべてのグッズが完売してしまったのだ。オーチャードホールの出入り口は1か所に定まっているのだが、売り場が撤収されたことでその後方の扉も出口として開放され、そこから外に出た。何度も来ているオーチャードホールに別の出口があることを、今回はじめて知った。クラフトワークは驚異的なバンドだが、クラフトワークファンの熱量もそれに劣らず驚異的だ。

バンドのキャリアからすれば、客の年齢層はかなり高めになっていていいはずだが、若い人も結構見かけた。それはすなわち、彼らの音楽が古びることなく、今の時代にも通用していることの証だと思う。いや、むしろ彼らが時代に先んじていて、時代が常に後から追いかけているのかもしれない。電子音楽の巨人は、その実績に依存することなく、今なお革新的であろうとし続けている。そんな彼らを、これからも追いかけていきたいと思う。

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